今回は書評という形で書籍の紹介にチャレンジしてみます。
会社や学校や家庭。私たちは一日中何かしらの人間関係の中で生活をしています。そんな中、多くの人たちが人間関係の悩みを持ちながら日々の暮らしを送っている事でしょう。「上司や部下が無能」、「妻や子供とは心が通じ合わない」、悩みは人それぞれです。他者との軋轢が日々のストレスを生んでいる事が少なくはないでしょう。
本書では人間関係を良くする為には、自分の箱から出る事だと論じています。人間関係を劇的に改善する魔法の箱とは一体・・・?
本書の主人公、トムはビジネスエリート。前職で素晴らしい実績を上げ、近年業績好調で話題のハイテク製造業、ザグラム社に重要なポストを与えられ迎い入れられます。自分の能力を発揮してザグラム社の業績を更に向上させようと息巻くトム。入社後、一ヶ月、突然ボスのバドに呼び出され、思いもよらぬ一言を突き付けられます。
「君には問題がある」と。
バドは、トム自身がその問題に気付いていない事が更に問題であると続け、ザグラム社では人間関係を良くするプログラムを社員に提供する事でハイパフォーマンスを実現してきた事を明かします。人間関係をスムーズにする為のテクニックは数あれど、その威力を発揮するかどうかは、深い所にあるものによって決まる。その本質が、自分の箱の中から外に出る事であると言うのです。
人は、相手の行動ではなく、相手が自分に対してどの様な思いを持って接しているかを敏感に感じ取り、それに対して反応をする。つまり、自分に対して相手が箱の中にいるのか、外にいるのかによって、言動の捉えられ方、影響力のベクトルが全く変わってしまうという事です。
私にも身に覚えがありますが、人は得てして傲慢で自分勝手です。自分以外の他者にも、自分と同じように希望もニーズもある、などという事は忘れがちです。自分の箱の中にいると、それが見えなくなり他者は単なる物となり、逆に箱の外に出る事で彼らを初めて人間として捉える事が出来るのです。
それでは、どんな時、私達は箱の中に入ってしまうのでしょうか。本書では、自分への裏切りがその始まりであると論じています。
1、自分が他の人の為にすべきだと感じた事に背く行動を、自分への裏切りと呼ぶ。
2、旦自分の感情に背くと、周りの世界を、自分への裏切りを正当化する視点から見る様になる。
3、周りの世界を自分を正当化する視点から見るようになると、現実を見る目がゆがめられる。
4、従って、人は自分の感情に背いた時に、箱に入る。
一旦箱に入ると、下記のような現象が起こります。
・他人の欠点を大袈裟にあげつらう。
・自分の長所を過大評価する。
・自己欺瞞を正当化する。
・相手に非があると考える。
5、時が経つにつれ、いくつかの箱を自分の性格と見なす様になり、それを持ち歩く様になる。
6、自分が箱の中にいる事によって、他の人達をも箱の中に入れてしまう。
7、箱の中にいると、互いに相手を手ひどく扱い、互いに自分を正当化する。共謀して、互いに箱の中にいる口実を与え合う。
人間関係の中で、お互いが箱に入ってしまい、その状態での自己正当化が始まると、お互いの感情に背く行動こそが餌となり、健全でないセルフイメージを肥大させる結果となる。これは恐ろしい事で、相手の欠点を見つけては喜び、相手の成功を妬むという、本来、組織を成功の為に集まった人間が、目的をすり替える行為に他ならないでしょう。本書ではこれを「狂気の沙汰」と断じています。
以上のような事が実例を上げながら綴られ、まるで、マンツーマンのセッションを受けている様な感覚で理解できます。
ストーリーテイリングとしては、傲慢で公私に問題を抱える主人公が、途中反発をしながらも、気付きを得て成長する、という王道のパターンであり、読後の爽快感を得られる内容となっています。著者が主張する箱の概念をトムの物語を通して解り易く解説していますが、肝心の箱を脱出する方法については、箱の概念を理解し、性善説に基づいて、ありのまま自分に素直でいて、自分の感情を裏切らず、楽でいる事、という個々人の物の捉え方や、感覚的な部分で語られている為、タイトル通りの明確なハウツーが、得られる内容ではありません。
ただし、本書では語られていない、この後トムが受けるであろう高度なプログラムについては想像が膨らみます。箱の概念を自らの組織や、家庭でどのように生かすかという事を考え、持ち帰る事で新たな人間関係の形を見つける事ができるかもしれません。
人間関係に悩む全ての人に、気持ちがフッと楽になるオススメの一冊です。
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