自らのキャリアデザインを形成するにあたって最も大切な事はなんだろうか。今までの職種や業種、携わったプロジェクトで何を成したか、という「過去」だろうか?目標や計画、将来こうなりたいといった「未来」だろうか?本書が主題に置いているのは、そのどちらでもなく、今をどう生き、何を成すべきか、といった「現在」である。
局面ごとの「現在」を大切に過ごす事で、職業人として高い専門性を持ち合わせたプロフェッショナルになろう。そのガイドラインを示したのが本書である。
多くの日本人の職業人人生と価値観を牛耳るリクルート社の出身の著者だけあって、切り口が大企業の中での職業人人生のステレオタイプ的なものになっていると、個人的には感じたが、日本における職業人が新入社員からやがて、何かの道の「プロフェッショナル」になるまでの道程を著者独特の例え「筏下り」、「山登り」というフレームワークで述べられている。
タイトルにもなっているキャリアデザインにおける「筏下り」と「山登り」。その時期と、それぞれの時期にあるべき姿勢、身に付けるべき能力について著者は以下の様に説明している。
●筏下り
新社会人~10年目~20年目頃まで
□ゴールを決めず短期の目標を全力でクリアしていく
□偶然による仕事や人との出会いを歓迎する
身に付けるべき能力:基礎力(対人、対自己、対課題)
予測不可能な日々と偶然性を全て受け入れ、とにかく頑張る時期。
この時期に重要な事は、まね、学び、基礎力を高めていく事であると論じている。
●山登り
□筏下り後、専門の道を腹決めした時から
□ゴールを明確に決めて、全エネルギーを集中してそのゴールを目指す
□仕事への取り組みは計画的、戦略的に行い、目指す山に関係ない仕事はしない
身に付けるべき能力:専門力(専門知識、技術、ノウハウ)
「行動領域の強み」と「専門分野」をクロスさせた「山」を選定してから始まる。
腹決めをして、周囲に宣誓する事が重要であると論じている。
日本において、一つの企業に勤め、企業が自前で社員を教育する、というかつての人材育成のスタンスは崩壊したと言っても良い。企業の多くは研修や教育をアウトソースに求めている。それならば社員にとってはまだ恵まれた環境で、学ぶ環境を企業に見出せない、意識の高い職業人は自らの責任の元で自己啓発や学びの場を求めて投資をしている。
そうした現状を踏まえると私は、登る「山」を選ぶ事と同様、下る「川」を選ぶ事の重要性を感じる。
著者も、個々人の学ぶ姿勢の重要性については言及しているが、自らの筏を浮かべる「川」を求めて自発的、自立的に行動する事が必要であろう。今後、人材の流動性が更に高まってく事を考えても、この視点は欠かせないのではないだろうか。
また、著者は登る山の選定を「一人前」になってから、と論じているが、時期尚早でも登る山をイメージする事も大切だと考える。
自ら「川」を選びラフティングしながらも、登る「山」をぼんやりでもイメージする事で、アンテナが強力になり、将来必要な情報やスキルが集まる力は強くなる。
本書を読み終えて、「自分自身が登る山はなんだ!?」、「その山は一体どこにある!?」と自問自答したくなる読者も多いだろう。最後に、本書でも取り上げられている、山選びの為の自問自答を3つ紹介する。
●キャリアに関する3つの問い
1)何が得意か (才能)
2)何がやりたいか (価値観)
3)何をやっている時に意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか( 志向)
この3つの問いをクリアにして行く事で、自らの「行動領域の強み」が明確になり、その先の山選び、ひいては川選びの判断材料となるのではないだろうか。
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