Mors certa, hora incerta.
死は確実だが、その時は不確実である。(ラテン語のことわざ)
本日、元サッカー日本代表の松田直樹選手が練習中に突然倒れ、意識が戻ることなくこの世を去った。
Jリーグの下部組織、JFLの松本山雅をJ2に昇格させるという志半ばであった。
私たちが当たり前のように訪れると信じている明日。
実はそれが不確実であり、私たちの時間は有限であるということに改めて気づかされる出来事であった。
そんな思いを強くしたのも、本書「フロー体験入門 楽しみの創造の心理学」に出会ったからかもしれない。
有名なM.チクセントミハイのフロー理論についての著書だが、本書で述べられているのは、
限りある一度きりの自分の人生(時間)をどのように生き生きと楽しく過ごすか、
という大きなテーマである。
毎日多忙な生活を送るビジネスマンにとって「時間が足りない」というのは最大の不平不満であろう。
これに対し著者は、「自分の人生をコントロールしていないことに対する言い訳にすぎない。」と言い、こう提言する。
「われわれがしているどれくらいのことがほんとうに必要なことであろうか。<中略>今ここにある人生を楽しむために、注意深く時間を節約することを学ばなければならない。」。
人生の質を高める簡単な方法は、自分の行動のオーナーシップを握ること、つまり積極的、能動的な行動を自らの選択でとっていくということである。
時間を、割り当てる、投資する、分配する、浪費する、このような判断を自分自身で行うことが重要となる。
「そんなこと起業でもしない限り無理ではないか?」という声が上がりそうだが、結果に重点を置く“結果エントリー”でなく、フロー活動に重点を置く“フローエントリー”に仕事のスタンスを変えてみることでこれが可能となる。
フローは自らの心を制御し、その注意力(心理的エネルギー)を、人生を楽しむために活用する活動なのである。ストレスと重圧を感じながら日々結果のみにとらわれる活動(仕事)とは逆の発想である。
フローを体験する為に重要なポイントは、
①目標が明確で、
②フィードバックが適切で、
③チャレンジとスキルのバランスが取れていることである。
この時、注意力は統制されていて十分に使われている。
目標なしでは精神を集中させて注意散漫を回避することが難しい。
フローを体験せずとも、目標に一致することを何かするだけで精神状態は改善する。
また、フローは自分のスキルがちょうど処理できる程度のチャレンジを克服することに没頭している時に起こる傾向がある。
最適な体験は、スキルとチャレンジとのバランスが重要で、超えるべき壁(チャレンジ)が自分のスキルに対して高すぎても低すぎてもいけない。
このようなフローの仕組みを知り、仕事に取り入れることであなたとあなたの組織はハイパフォーマーになれるかもしれない。
これは人的資源の大きな差別化戦略とも言える。
「そんなこと無理では?」と感じたあなたには今一度、一度きりの人生を、この時間をどのように過ごしていきたいのかを考えるきっかけになる本書であるので、是非一読をお勧めしたい。
最後に代表戦での感動と気づきを与えてくれた松田選手に感謝とお悔やみを申し上げます。